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  • SKYWARD 2018年9月号

トラックが自分の居場所

文/中島亮 撮影/増田岳二

電動時計による計測が導入されて以降、100mを10秒未満で走り抜けた者は全人類で134人しかいない。

日本陸上史に残る偉業は、さぞかし特別な体験だったのかと思いきや、本人は「走る前も走っている間も、何も特別な感覚はありませんでした」と素っ気ない。

中学では3年生の時に全国大会の200m 走で2位になるが、それ以外は目立った成績を残していない。部活は放課後の遊び場という域を出なかった。それが、高校になると少しずつ意識が変わる。記録が伸びる度に世間の注目を浴び、満足感を得ることが喜びとなった。以来、淡々と百分の一秒単位でタイムを縮めるための練習を続けている。9秒98も本人にとっては単なる通過点なのかもしれない。

「僕が陸上を好きな理由はすごく単純。自分が一番になれるから。自分が一番輝ける場所がトラックだからです」特別な輝きを放つ場所として、東京五輪はこれ以上ないほどの舞台となるだろう。

「東京五輪までは、僕の強みである中盤の加速力をさらに伸ばしたい。100m では決勝に進出して、なるべく上の順位でゴールすること。リレーでは金メダルが目標です」飄ひょうひょう々と話す様子は、自信に満ちている。

いとも簡単にまた偉業を成し遂げてしまうのではと期待せずにはいられない。稀代のスプリンターから、しばらく目が離せない。

※2018年6月現在

桐生祥秀(きりゅう よしひで)1995年、滋賀県生まれ。日本生命所属。京都・洛南高校3年時に100m走で当時日本歴代2位となる10秒01を記録し注目を集める。東洋大4年時の日本学生陸上競技対校選手権大会100m走決勝で、日本人初の9秒台となる9秒98の日本新記録を樹立した。4×100mリレーでは2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダル、2017年ロンドン世界選手権では銅メダルを獲得。

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